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俳句入門講座

住職の俳句

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大欠伸

2019-10-10
大欠伸すれば一層天高く
 
コスモスの風置き去りにして遊ぶ
 
一日の始まりは風秋桜
 
名も知らぬ花を数へし秋思かな
 
一滴の酢橘を絞る朝日かな
 
秋の蚊をぱちんぱちんと罪の音
 
起動音にも秋冷のあるやうな
 
一椀のこんもり香る生姜かな
 
枝豆を食む時間など無きやうに
 
青空は自由の色よ鳥渡る
 
走り書きしてより仕事秋灯下
 
楽しげに爪切る人や月明り
 
月光の四百年の大樹かな

言霊

2019-10-02
雨音を言霊と聞く大夏野
 
涼風の来て詩心なる三瓶
 
雨傘のポップを刻みゆく夏野
 
雨止めば詩心降る大夏野
 
曇天の落つこちさうな大夏野
 
句会場一新といふ涼しさよ
 
突風に詩を忘れてゆく夏野
 
傘さすもささぬも自由星月夜
 
人間を置き去りにして大南風
 
夜の底を解きて風の黄菅かな
 
蜩の朝な夕なを鳴き継げる
 
万人の呼吸を集め大花火
 
Tシャツの形に汗のありにけり
 
たくましき日焼の集ふテントかな
 
一つでも再会あれば灯涼し
 
行列の首伸びてゆくビールかな
 
目玉焼割れば残暑のこぼれたる
 
退院の第二の母や秋の空
 
ふと笑ふ鈴虫寺の赤子かな
 
鈴虫も祈つてゐるか爆心地
 
花芒結界に置く茶席かな
 
声明の声高らかに虫の寺
 
鈴虫もインド様式なる音色
 
仲直りしてどこまでも月涼し
 
争ひは静かなものよ虫の声
 
遊び子に鈴虫といふ風情無く

蛍川

2019-07-18
足音で分かる顔あり若葉雨
 
香道も茶道も静かなる薄暑
 
新聞の一字一句に風薫る
 
妻寝ぼけつつ登場の薄暑かな
 
四差路を四方に別れゆく薄暑
 
エプロンは花柄の妻灯涼し
 
鳥たちの朝を集めほととぎす
 
独り言いつしか増えて油虫
 
夕立や珈琲の香に団欒す
 
石楠花の重たさうなる夕日かな
 
ほととぎすメランコリーの雨を啼く
 
僧職は孤独なものよ大南風
 
ダービー馬直線一気より光る
 
一望の真青といふ暑さかな
 
万緑やアラフォー向けのハネムーン
 
軍艦の集ふ暑さや瀬戸の海
 
みどり児の眼まんまる初蛍
 
幼児のやがては母に蛍川
 
幼子は一気に走る蛍川
 

薄暑

2019-05-26
曇天にサンドイッチの薄暑かな
 
花海桐するどく香る岬かな
 
花海桐抜ければ雨のにほひかな
 
ノジュールは太古のベンチ夏霞
 
隧道を抜ければ太古なる薄暑
 
語り部は大先生よ花楝
 
落城の薄暑よ大いなる海よ
 
一同の夏めくショートケーキかな
 
若葉風一気に広く日本海
 
本丸の跡形もなく夏の雨
 
化石にも声あるやうな薄暑かな
 
新緑にある戦場の記憶かな
 
この丘はかつて戦場夏霞
 
風の来て若葉と妻の香りかな

息吹

2019-03-09
風花のひかりの線でありにけり
 
篳篥の音確かむる春の寺
 
ネクタイの結び目にある余寒かな
 
山茱茰の花に解けてゆく大気
 
鳥もまた旅の途上や遠霞
 
これよりは機上の人よ春の雲
 
春山に心の解けゆく離陸
 
春空の一点となる機上かな
 
春の雲抜ければ機上アナウンス
 
雲割れる形に春の海なりし
 
着陸の大きくなつてゆく春田
 
タラップの東風現るる一歩かな
 
蕗の薹ただ一本の地平線
 
淡雪に惑ひし森の都かな
 
春雪の払はんとして無かりけり
 
地震の影潜むネオンや冴返る
 
追悼の雅楽の堂や雪の果
 
ものの芽の開かんとする息吹かな
 
あたたかき笑顔のありて旅の果
 
もう一度耳澄ましゐる初音かな

住職原稿(日本伝統俳句協会機関紙「花鳥諷詠 一頁の鑑賞」)

花筒に水満つる音墓参     県 越二郎

花筒に水満つる音墓参    県 越二郎

(昭和十二年『ホトトギス雑詠選集』秋の部より)

 

私は寺の息子として三十八年前生を受けた。

 

自坊の敷地内に五十基程の墓石が並ぶ墓地があり、彼岸、盆の時期には参詣が絶えない。

墓参の作法として花の水替えというものがある。

古くなった花を取り除き、花筒に水を注ぐ。

日の光を帯び、注がれてゆく水は墓地という地の利もあるのか、より透明で清潔に見える。

 

「トクトクトク」という音がだんだん細くなり、高くなってゆく。

やがて花筒に水が満ちるのだが、そこに音は無い。ただ、花筒の頂を満たす水面がゆらめき、ヒソヒソと囁いているように見える。

 

揚句の作者はそんな水の囁きを聞いておられるのではないかと思う。

 

墓参とはそれなりに緊張感を伴うもので、静寂を伴うものである。

墓石に対峙する作者は、先立って行かれた有縁の方の声なき声を、花筒を満たす水の光に聞いておられるのではないだろうか。

 

浄土には八つの功徳を有す水が満ちているという。残された作者の命を満たす音なのかもしれない。

kenshi

蜩のなき代わりしははるかかな   草田男

蜩のなき代りしははるかかな    草田男
(昭和四年『ホトトギス雑詠選集』秋の部より)
 
幼い頃、夏休みになれば友達と森深く分け入り、虫取りに励んでいた。
背丈を優に超える虫取り網と共に、木々の隙間を駆け回り、気づけば夕刻。
「さあ帰ろう」と森を抜けてゆく背に何時もあったのが、蜩の声であった。
不思議とその蜩を捕まえようと戻る者は誰もいなかった。
 
大人になり、蝉の声に方向があることを感じる。
朝方に鳴く蝉の声は、土砂降りの雨のように空から降って来る。
一方、夕刻の蜩の声は、逆に空へと上り、抜けてゆく。
 
掲句は草田男初期の句である。
草田男はどこか潔癖で神秘的な蜩の声の律動が、空へと上ってゆく様を「はるかかな」と詠んだ。
青年期より度々精神を病んだ草田男にとって、蜩に導かれたその空はたまらなく広く、自分が解き放たれる救いの場所であったのではないか。切れ字の「かな」が景をどこまでも広げている。
 
子供の頃、誰も蜩を捕まえようとしなかった理由が今、少し分るような気がする。
kenshi
 

俳句入門講座17

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俳句入門講座15

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俳句入門講座14

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俳句入門講座13

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俳句入門講座12

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俳句入門講座1~11

俳句入門講座1~11
俳句の基本について仏婦会報「まなざし」にて連載しています。

住職の掲載作品

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角川「俳句」2月号

2018-01-31
角川「俳句」2月号
特集「高野素十の写生」に寄稿させていただきました。
 
俳句は極楽の文学。
 
俳句を通し、宗教を感じていたい。
宗教を通し、俳句を感じていたい。
 
そんな思いで綴った文章。
kenshi
 

角川「俳句」7月号

2017-07-04
角川出版より冊子が届きました。
光栄なことに、全国の若手俳人の1人としてご依頼をいただいたもの。
 
「若手競泳&同時批評」
よかったら、ご覧下さい。
kenshi

角川『俳句』掲載作品 「精鋭十句競詠」 

「呼吸」     能美顕之
 
山茱萸の小さき呼吸始まりぬ
 
蘆の角風に高さを揃へたる
 
春の川へとふくらんでゆく日差し
 
芽柳に織り込まれゆく光かな
 
春の雪里の余白を埋めてゆく
 
淡雪を少し纏ふといふ風情
 
宇宙には国境の無く遠霞
 
一望の春田に大いなる息吹
 
遥かなる水平線の霞かな
 
仏法の深さに溺れ春炬燵
 
○略歴
昭和52年2月9日生 
『ホトトギス』所属
 俳歴6年 
 
○メッセージ
「声」
自然と対峙していますと、ふと自分の小ささを思います。そしてその小さな私が大自然の流れにほどけてゆくような、不思議な感覚にとらわれる事があります。「あなたはあなたのままでいい」と声が聞こえて来るような、一瞬。その一瞬は私の宝です。「人間も大自然の一部分」。自然の声に耳を澄まして参りたいと思います。

俳誌『俳壇』掲載作品

「一日」

 

青空の端に囀りのこぼれたる

 

大いなる卯浪に浮かぶ岬かな

 

一列の光整ふ植田かな

 

その中に孤高の色や花菖蒲

 

夏空へ赤子の声の立ち上がる

 

雨の来て重たき風の若葉かな

 

蛙の音大雨の夜を司る

 

 

○俳歴

 

能美顕之 

昭和五十二年二月九日生

二〇一〇年 日本伝統俳句協会入会

二〇一五年 ホトトギス同人

 「ホトトギス」所属

 
○コメント
 
自然と対峙していますと、ふと自分の小ささを思います。そしてその小さな私が大自然の流れにほどけてゆくような、不思議な感覚にとらわれる事があります。「人間も大自然の一部分」。自分の小ささを忘れず、謙虚に自然の声に耳を澄まして参りたいと思います。

 

 

朝日新聞(東日本版)掲載作品 「あるきだす言葉たち」

「風音」      能美顕之
     
上りゆく香に棚引く秋日かな
 
秋風の膨らむ路地や鞆の浦
 
曇天に存在感の紅葉かな
 
過る風留まる風や大紅葉
 
天も地も今渡りゆく鷹のもの
 
風音の去りて落葉の始まりぬ
 
落葉踏む音に生まるるリズムかな
 
太陽を乗せて散りゆく大銀杏
 
念仏の声風となる冬の堂
 
一斉に銀杏落葉の景となる
 
風が風呼んでゐるなり冬紅葉
 
大空と一つになりて日向ぼこ
 
 
能美顕之(のうみけんし)。1977年島根県生まれ。「ホトトギス」同人。
2015年日本伝統俳句協会新人賞。
 

住職の受賞作品

日本伝統俳句協会協会賞
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