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俳句入門講座

ようこそ 俳句の世界へ

住職の俳句

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秋から春へ

2022-05-20
草刈ってよりとんぼうの丘なりし

掲げゆく六金色の天高し

寝返りにまた失敗の秋思かな

紅白のいずれも清し萩の寺

名月を待つてゐるかに子の寝顔

妖しさも風情となりぬ曼殊沙華

名月を背負ひし空の青きこと

青々と闇遠ざけて今日の月

子を膝に頭上に空を置く秋思

臨終の報へと急ぐ月明り

一隅を照らす月夜のありにけり

月光の溢れフロントガラスかな

子に明けて子に暮るる日や春隣

涙まで悴んでゐる忌日かな

目覚めればすぐ笑ふ子や春隣

人の世へエールのごとく日脚伸ぶ

春の日の鳩へと注ぐ平和かな

後ろ髪引かれるやうな旅の春

喫煙所へと続く列春の雲

約束の時間に桜吹雪かな

亡き人のコントラバスを聴く朧

読経の声高々と卒業子

何もかも麗らかな日や吾子を抱く

指相撲にて再会の子にうらら

はいはいの子の春光に躓きぬ

アメリカンニューシネマ

2021-08-13
南風へ紫煙を手向けゐる忌日

五月雨を待つアメリカンニューシネマ

雲流れいつしか夏の空なりし

ゆりかごを揺れば夏蝶現るる

白靴や今宵は愛のキューピッド

大百足二の腕を這ふ夜明かな

仕事また降ってくる夜の蝉時雨

オリンピア精神を継ぐ蝉時雨

みんみんの神の社を鎮めをり

ミステリー置く静かなるボートかな

何もかもまだ咲き切らぬ暑さかな

亀もまた所望川辺の扇風機

風薫る

2021-06-02
初夏の光を纏ふ母乳かな

妻の顔母の顔あり風薫る

コロナ禍の閉鎖病棟なる薄暑

葉桜の魔物のやうでありにけり

雲渡る遅速のありて風薫る

むずかつてゐる時父似風薫る

芍薬の緋は祝ぎの色祝ぎの色

枇杷をもぐ手の青空に届きさう

赤子の手扱うやうに枇杷をもぐ

枇杷をもぐ術に個性のありにけり

面影

2021-04-12
青空の欠片のやうに犬ふぐり

春めくや焼肉ランチなるデート

起動音すーつと止んで春の雨

のどかなる大海原のベンチかな

異国へと飛んでゆきたき遠霞

入学の面影を置く母校かな

また一つ遊具の消えてライラック

ハンガーに白衣を掛けてより長閑

きりしまやたつた一人の法事客

押し花にそつとしたため初桜

アルプスを統べて淡墨桜かな

春月に記憶を辿る車窓かな

レスキュー

2020-12-30
凍雲を破るひかりの尖りをり

レスキューのサイレン続く冬の月

道一つ違えてしまふ枯野かな

パトカーとまたすれ違ふ冬日向

冬蝶の飛ぶ頼りなきリズムかな


住職原稿(日本伝統俳句協会機関紙「花鳥諷詠 一頁の鑑賞」)

花筒に水満つる音墓参     県 越二郎

花筒に水満つる音墓参    県 越二郎

(昭和十二年『ホトトギス雑詠選集』秋の部より)

 

私は寺の息子として三十八年前生を受けた。

 

自坊の敷地内に五十基程の墓石が並ぶ墓地があり、彼岸、盆の時期には参詣が絶えない。

墓参の作法として花の水替えというものがある。

古くなった花を取り除き、花筒に水を注ぐ。

日の光を帯び、注がれてゆく水は墓地という地の利もあるのか、より透明で清潔に見える。

 

「トクトクトク」という音がだんだん細くなり、高くなってゆく。

やがて花筒に水が満ちるのだが、そこに音は無い。ただ、花筒の頂を満たす水面がゆらめき、ヒソヒソと囁いているように見える。

 

揚句の作者はそんな水の囁きを聞いておられるのではないかと思う。

 

墓参とはそれなりに緊張感を伴うもので、静寂を伴うものである。

墓石に対峙する作者は、先立って行かれた有縁の方の声なき声を、花筒を満たす水の光に聞いておられるのではないだろうか。

 

浄土には八つの功徳を有す水が満ちているという。残された作者の命を満たす音なのかもしれない。

kenshi

蜩のなき代わりしははるかかな   草田男

蜩のなき代りしははるかかな    草田男
(昭和四年『ホトトギス雑詠選集』秋の部より)
 
幼い頃、夏休みになれば友達と森深く分け入り、虫取りに励んでいた。
背丈を優に超える虫取り網と共に、木々の隙間を駆け回り、気づけば夕刻。
「さあ帰ろう」と森を抜けてゆく背に何時もあったのが、蜩の声であった。
不思議とその蜩を捕まえようと戻る者は誰もいなかった。
 
大人になり、蝉の声に方向があることを感じる。
朝方に鳴く蝉の声は、土砂降りの雨のように空から降って来る。
一方、夕刻の蜩の声は、逆に空へと上り、抜けてゆく。
 
掲句は草田男初期の句である。
草田男はどこか潔癖で神秘的な蜩の声の律動が、空へと上ってゆく様を「はるかかな」と詠んだ。
青年期より度々精神を病んだ草田男にとって、蜩に導かれたその空はたまらなく広く、自分が解き放たれる救いの場所であったのではないか。切れ字の「かな」が景をどこまでも広げている。
 
子供の頃、誰も蜩を捕まえようとしなかった理由が今、少し分るような気がする。
kenshi
 

俳句入門講座17

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俳句入門講座15

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俳句入門講座14

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俳句入門講座13

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俳句入門講座12

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俳句入門講座1~11

俳句入門講座1~11
俳句の基本について仏婦会報「まなざし」にて連載しています。

住職の掲載作品

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角川「俳句」2月号

2018-01-31
角川「俳句」2月号
特集「高野素十の写生」に寄稿させていただきました。
 
俳句は極楽の文学。
 
俳句を通し、宗教を感じていたい。
宗教を通し、俳句を感じていたい。
 
そんな思いで綴った文章。
kenshi
 

角川「俳句」7月号

2017-07-04
角川出版より冊子が届きました。
光栄なことに、全国の若手俳人の1人としてご依頼をいただいたもの。
 
「若手競泳&同時批評」
よかったら、ご覧下さい。
kenshi

角川『俳句』掲載作品 「精鋭十句競詠」 

「呼吸」     能美顕之
 
山茱萸の小さき呼吸始まりぬ
 
蘆の角風に高さを揃へたる
 
春の川へとふくらんでゆく日差し
 
芽柳に織り込まれゆく光かな
 
春の雪里の余白を埋めてゆく
 
淡雪を少し纏ふといふ風情
 
宇宙には国境の無く遠霞
 
一望の春田に大いなる息吹
 
遥かなる水平線の霞かな
 
仏法の深さに溺れ春炬燵
 
○略歴
昭和52年2月9日生 
『ホトトギス』所属
 俳歴6年 
 
○メッセージ
「声」
自然と対峙していますと、ふと自分の小ささを思います。そしてその小さな私が大自然の流れにほどけてゆくような、不思議な感覚にとらわれる事があります。「あなたはあなたのままでいい」と声が聞こえて来るような、一瞬。その一瞬は私の宝です。「人間も大自然の一部分」。自然の声に耳を澄まして参りたいと思います。

俳誌『俳壇』掲載作品

「一日」

 

青空の端に囀りのこぼれたる

 

大いなる卯浪に浮かぶ岬かな

 

一列の光整ふ植田かな

 

その中に孤高の色や花菖蒲

 

夏空へ赤子の声の立ち上がる

 

雨の来て重たき風の若葉かな

 

蛙の音大雨の夜を司る

 

 

○俳歴

 

能美顕之 

昭和五十二年二月九日生

二〇一〇年 日本伝統俳句協会入会

二〇一五年 ホトトギス同人

 「ホトトギス」所属

 
○コメント
 
自然と対峙していますと、ふと自分の小ささを思います。そしてその小さな私が大自然の流れにほどけてゆくような、不思議な感覚にとらわれる事があります。「人間も大自然の一部分」。自分の小ささを忘れず、謙虚に自然の声に耳を澄まして参りたいと思います。

 

 

朝日新聞(東日本版)掲載作品 「あるきだす言葉たち」

「風音」      能美顕之
     
上りゆく香に棚引く秋日かな
 
秋風の膨らむ路地や鞆の浦
 
曇天に存在感の紅葉かな
 
過る風留まる風や大紅葉
 
天も地も今渡りゆく鷹のもの
 
風音の去りて落葉の始まりぬ
 
落葉踏む音に生まるるリズムかな
 
太陽を乗せて散りゆく大銀杏
 
念仏の声風となる冬の堂
 
一斉に銀杏落葉の景となる
 
風が風呼んでゐるなり冬紅葉
 
大空と一つになりて日向ぼこ
 
 
能美顕之(のうみけんし)。1977年島根県生まれ。「ホトトギス」同人。
2015年日本伝統俳句協会新人賞。
 

住職の受賞作品

日本伝統俳句協会協会賞
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