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善太郎逸話

草餅説法

  京都の本山参りの帰路、善太郎さんは可部(広島県)の以前より親しくしていた同行の家に泊めてもらった。その夜は、家内中が善太郎さんの話す法縁に耳を傾けながら夜をふかした。そして翌朝、善太郎さんが有福に向けて出発したあと、浴衣が一枚紛失していることに家人が気づいた。
    「あの浴衣は善太郎さんが持って帰られました」
とその家の女中は主人に言った。
  驚いた主人は家中を探したが結局浴衣は出てはこなかった。とうとう家人みんながその女中の言葉を信じてしまった。
 
  その後、主人が有福温泉に湯治に来た際、善太郎さんを訪ね浴衣のことを問いただした。善太郎さんは初めのうちはポカンとしていたが、じきにあやまり、「これで弁償いたしますから、どうか許してください」
と、仏壇の引き出しから金を出した。
  これで可部の主人はいよいよ善太郎さんが盗人であったと確信し、太郎さんをさんざん罵って帰ろうとした。すると善太郎さんは主人に
   「今はなにもございませんが、せめて家の方々にこの草餅でもあげてください」
と、仏壇に供えてあった草餅を紙に包んで主人にわたした。
 
  可部に帰った主人は、この出来事を家人みんなに話しながら、ひとつずつ餅を配った。ところが女中が一人だけ俯いて餅を食べようとしない。主人がどうしたのかと聞くと彼女は突然泣き出し、ふるえながらこう言った。
  「自分のような罪深い者がお供え物の餅を手にしたらどんなに恐ろしい報いを受けるかしれません。実はあの浴衣はこの私が盗んで善太郎さんに罪を被せたのです」
  これを聞いた家人は驚き、ことに主人は大変後悔した。

  主人は翌年も有福に湯治に来た際、善太郎さんにあやまりお金を返した。その時の恐縮する主人を見つめる善太郎さんのまなざしは、やはり柔和なものであった。

月夜念仏

  それはある年の月の出た夜のことだった。若い男が善太郎さんの家にある柿の木にのぼり、たわわに実った柿を盗っていた。
 
  ところがそこへ突然、善太郎さんが小用のため家の外へ出てきたのである。男は木の上でじっと身を潜めていたが、なにしろさえた月光の下、隠れることができず善太郎さんに見つかってしまった。
  盗みの現場を見られた男は、これは大変なことになったと大変恐れたが、善太郎さんは怒るどころか穏やかに念仏を唱えつつその柿の木に梯子かけてやったのだ。
 「暗いですから怪我のないようにとって帰ってください」
  善太郎さんはこう言うと小用を終え、また念仏を唱えながら家の中に入ってしまい、そのまま寝てしまった。
  男は驚き赤面して、盗った柿も放り出し逃げてしまった。
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